九州大学 材料工学部門 工学部 物質工学科 材料工学コース 大学院工学府 物質プロセス工学専攻/材料物性工学専攻 大学院工学研究院 材料工学部門

研究者PickUp
岐路に立ったら攻めの決断あるのみ。エネルギー社会の未来を明るくする新たな研究の芽が育ちはじめた。
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山崎 仁丈 教授
Yoshihiro Yamazaki
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研究者PickUp

私が高校に入学するころ、ちょうど高温超伝導体が発見され、リニアモーターカーの開発とともに超伝導技術が世間の注目を集めていました。高校の友達には「研究者になりたい」と言っていたようで、その夢を追うために入学したのは、東北大学です。材料工学の分野では、九大と双璧をなすといわれる大学です。学生時代に行った研究は磁性材料に関するもので、大学院卒業後は心機一転、固体中の原子の移動速度を測定する研究室で助教として研究を行っていました。そんな私が九州大学に籍を置くことになったのは、いくつかの人生の岐路に立ったとき、思い切って攻めの決断を下してきたからに他なりません。

攻めの決断の先に新天地はある

2006年のこと、東北大学で助手として務めていたとき、文科省の外郭団体である日本学術振興会が「海外特別研究員」の募集を行っていました。締め切りを過ぎていましたが、大学の事務に頼み込んで無理やり申し込み、渡米のチャンスを手にしました。東北大学に籍を置いたまま、アメリカのカリフォルニア工科大学で客員研究員として刺激に満ちた2年間を過ごすことになったのです。その後、思い切って東北大学の助教職を辞職し、カリフォルニア大学の上級博士研究員として研究を続ける決断を下しました。エネルギー材料の可能性に、人生をかけたかったのです。

アメリカにおいて、私にとっての岐路がまた訪れました。科学技術振興機構「さきがけ研究員」の公募に目がとまったのです。この「さきがけ」は、文部科学省が設定した戦略目標に沿って研究を進めるプログラムで、独創的・挑戦的かつ国際的に高水準な先駆的基礎研究を推進、日本でエリート研究者を育てることを目的としています。

この応募で私が提案したのは、太陽光と酸素吸収酸化物を用いて水素、合成ガス、メタンおよびメタノールなどの燃料生成を目指すという、とても野心的なものでした。研究開始当初はその実現性を疑問視されていましたが、5年半の研究終了時には水素や合成ガスの製造に見事成功、その成果がThe Chemical Conversion of Light Energy Prize 2016 として表彰されました。

また、この研究が評価されたことで2014年8月に九州大学稲盛フロンティア研究センターに教授として迎えられ、自ら設計した大型実験装置とともに帰国することになったのです。

持続可能な物質・エネルギー循環システム

いま九州大学の学生さんと研究を行っているのは、太陽エネルギーや熱エネルギーを水素などの化学物質に貯蔵する技術や、化学物質から高効率に発電する固体酸化物燃料電池材料に関するもので、これらを組み合わせることにより持続可能なエネルギーサイクルを構築することができます。しかし、これらを実社会で利用するには効率やコストなど多数の課題を克服する必要があります。私たちは、これら現代社会の最重要課題に材料科学や材料工学の視点から取り組むことで、学術分野はもちろん一般社会に貢献していきたいと考えています。これら研究の一端をご紹介したいと思います。

《熱化学水分解金属酸化物》

太陽光の集光と遮断を繰り返すことによって、触媒となる金属酸化物に温度サイクルを与えることで水を分解し、水素や一酸化炭素、合成ガスなどが生成します。この方法は熱化学水分解と呼ばれ、この効率を上げるのに必要な新材料(金属酸化物)の開発を行っています。
私たちはペロブスカイト酸化物(※1)を用いた熱化学的水分解を世界にさきがけて実証し、それまでホタル石型構造を有するセリアのみにおいて報告されていた熱分解反応を大きく凌駕し、動作温度の低減および水素製造量は目標としていた数値を大幅に上回る大きな成果を得ました。さらにはこの研究の中で電子還元により二酸化炭素が一酸化炭素に転換されることを発見しました。これは二酸化炭素の排出削減が緊急課題となった現在、二酸化炭素固定技術として社会のニーズに応える成果となりました。

《光水分解金属酸化物》

太陽光を利用し、水から水素を生成する光水分解金属酸化物(光触媒)を高性能化する材料の研究を行っています。ある特性を持った光触媒に光を照射すると、電子とホール(正孔)が生まれ、この電子とホールを、水分解などの酸化還元反応に利用できると、水を水素と酸素に分解することができます。
光触媒の特性は金属酸化物の点欠陥(※2)などに大きく左右されます。
光触媒については、先日(2018年6月)プレスリリースされたばかりの成果発表があります。金属酸化物(チタン酸ストロンチウム)に高濃度の酸素欠陥(配列の酸素位置に点欠陥をもたせる)と少量の不純物を加える(電子ドーピング)ことで、電子とホールの数が向上し、水素および酸素の生成速度が大幅に向上することを発見しました(水素40倍、酸素3倍)。この理由が、紫外光照射により励起された電子寿命の延長と、ホール流束の増大によることを世界で初めて明らかにしました。
※この研究成果は2018年7月、米国化学会の国際学術誌「ACS Catalysis」に掲載されました。

《プロトン伝導性固体酸化物燃料電池電解質》

燃料電池は水素などの燃料から電力を取り出すことができる環境に優しい発電装置です。燃料電池の中で最も発電効率が良いのが固体酸化物形燃料電池ですが、動作温度が高いため(700〜1000℃)使用用途が大型発電設備等に限られています。私たちは固体酸化物電解質としてのプロトン(水素イオン)伝導性酸化物の伝導度が動作温度を決定することに着目し研究を進めました。伝導性酸化物として添加した元素とプロトン間の引き合うエネルギーによってプロトン伝導度が決まることがわかり、さらにはそのエネルギーが小さいほどプロトン伝導度を向上する法則をみつけ、動作温度の関係も明らかにしました。これにより450℃以下とされる携帯電話等も使用できる動作温度を大幅に下回る350℃でも充分に動作することが示されました。
この研究成果は英国科学誌「Nature Materials」に掲載され、私たちは現在、これらに関する材料科学を構築しているところです。

 九州大学にも九州にも縁がなかった私が今、こうしてよい環境で研究できているのは、九州大学が世界オンリーワンの水素エネルギー教育研究拠点となることを目指していることと無関係ではないでしょう。

新たな研究の芽

研究を続けていく上でも、多くの岐路に立ちます。いま、私たちがわくわくしながら取り組んでいるのは、人工知能やディープラーニング(※3)の手法を応用した材料開発研究です。これまで画像認識や音声認識の分野で活用されてきた機械学習という方法論を、材料研究に持ち込んでいます。

医薬品開発などで進められているバーチャルスクリーニングを材料研究に適応できれば、研究者がほしい材料特性を短い期間で開発、例えば10年かかっていた材料開発を数か月で終えられる可能性が見えてきました。材料研究の世界では、金属や酸化物材料の特性を組み合わせることで、望む性質を持った材料を生み出すことが求められていますが、その目的を達成するには、極めて地道な実験を繰り返す必要があります。しかも、望みの材料を開発できる保証は一切ありません。そのような難しい条件から最大の成果を得るため、私の研究室では人工知能やディープラーニングの活用を積極的に推進しているのです。仮想的な実験で材料特性を予測できるため、極めて短い開発期間で望む特性の材料を開発できるようになります。これにより研究者は、未来社会の礎となるような重要な課題に時間を割くことが可能になるため、さらに大きなインパクトを社会に与えられると考えています。

人は偶然の積み重ねのなかで「いま」という時を過ごしています。気づかないうちに人は岐路に立っているものです。若いみなさんが進学先を決めるのも、その一つ。後悔のない道を、勇気を持って、攻めの決断することが何よりも大切なことだと、私は信じています。

ペロブスカイト酸化物

※1 ペロブスカイト酸化物…天然鉱物ペロブスカイト(CaTiO3)と同じ結晶構造をもつ酸化物。立方体の中心に金属A、各頂点に金属B、各面の中心に酸素Oが配置している構造です。

※2 点欠陥…結晶物質を構成する原子は基本的には規則的な配列を持ちますが、不純物原子が紛れ込んだりすることで、イレギュラーな並びも存在します。これを欠陥と言い、そのうち、点状の欠陥を点欠陥といいます。「欠陥」という言葉は不具合や失敗など何だか悪い印象がありますが、触媒材料でいう「欠陥」は高機能化や、新機能の創出のための重要な因子で、私たちは欠陥制御による高機能性材料の創出を目指しています。

※3 ディープラーニング…近年注目されている人工知能研究の一つで、コンピューターが物事を理解するための新しい学習方法を指します。

山崎 仁丈 教授

Yoshihiro Yamazaki

昭和47年12月11日、福井県大野市生まれ。福井県立大野高校から東北大学、同大学院助教を経て、米国カリフォルニア工科大学上級客員研究員および客員アソーシエイト。現在、九州大学工学部物質科学工学科材料科学工学コースおよび九州大学エネルギー研究機構教授。

Tea Break

趣味は料理を作ることです。食べるのが好きで、週末は妻に代わって私がキッチンに立ちます。得意なジャンルは中華とイタリアン。冷蔵庫にあるものや食材のストックを見て、メニューを決めます。妻と一緒に買い物に出かけますが、福岡は新鮮な魚介類や野菜も豊富。私が作る料理は材料の善し悪しで味が決まってしまうので、とても良いところに住んでいると実感します。家族に人気があるのは、アンチョビを使ったトマトソースのパスタです。

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私の研究室では、桜の季節は学生たちと花見をするのが恒例行事になっています。研究室の留学生の諸君も喜んでくれています。皆さんも、ご一緒しませんか。

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