九州大学 材料工学部門 工学部 材料工学科 大学院工学府 材料工学専攻 大学院工学研究院 材料工学部門

研究者PickUp
より豊かな暮らしを実現する新材料開発の基礎は微構造の解明にある
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金子 賢治 教授
Kenji Kaneko
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研究者PickUp

現代社会の成り立ちを少し一緒に考えてみませんか。

例えば、移動手段。陸上ではどこに行くのにも自分の足で歩くしかなかった古代から、動物の背に乗り移動するようになりました。海や川では泳ぐだけでなく、筏や舟を使うようになりました。蒸気機関の発明に伴い、自動車や機関車、蒸気船などが誕生していきました。このような技術の革新とともに、今では空を飛ぶだけでなく、宇宙空間にまで進出しようとしています。

例えば、通信手段。手振り、言葉や音を使って、情報を伝えていた古代から、狼煙や飛脚、郵便制度へ、そして電話や無線への発展とともに、通信・通話技術が発達し、現在ではスマホやインターネットが生活の大部分を占めるようになってきています。

文明の発展と材料の進化

端的な言い方をすれば、このように身の回りで実感できる文明の発展は、それに見合った適切な材料の発明と試行錯誤の繰り返しによるそれらの進化があったからです。「材料工学」とは、新たな材料を発明し、より豊かな暮らしを実現する学問です。

考えてみてください。周期表にはたった118の元素しか掲載されていないにも関わらず、身の回りには数多な材料が存在しています。そしてそれぞれの材料にそれぞれの利点や性質があります。例えば、日常生活の中で様々な用途で用いられている鉄の利点はその安さと強さであり、アルミニウムはその軽さと柔らかさであったりします。欠点も当然ありますから、工夫を凝らして補いながら、使える材料を創り出し続けています。

例えば、発達したモータリゼーション社会においては燃費向上のために車体のさらなる軽量化を求めています。20世紀に入ると航空業界において、より軽く、より安価でより強い材料が求められるようになり、近年ではリチウムを添加した「アルミリチウム合金」、チタンを添加した「チタンアルミニウム合金」などが開発され、航空機に採用されています。

このように、より強く、より軽く、より長持ちし、より安定に供給でき、より安全で、より加工しやすく、より使い勝手の良い、などといった材料に求められる性質を突き詰めていくために必要不可欠な学問が私の研究室で行っている「材料解析学」です。

新しい高機能材料の創出を目指す

理想的な性質を持つ新しい高機能材料の創出には、ナノスケールでの微構造の制御が求められています。原子スケールやナノスケールでの構造を解析し、その性質を見極めることが重要になります。材料が生み出す性質の源を理解するために非常に重要なポイントの一つです。私たちは透過型電子顕微鏡を駆使した材料解析を日夜進めています。その結果、材料の形だけでなく、原子配列、微構造や組成、結合状態、3次元形態などといった、微構造をナノスケールでより正確に理解し制御することで、新材料を創出することができるようになってきています。

材料工学の世界で「解析」は大変地味な分野かもしれませんが、微構造解析の研究は材料の持つ情報を知るために、次世代の高機能材料を新たに生み出すために、欠かせない学問です。

人として誠実であれ

学生の諸君と共に掲げている研究室のモットーは「嘘をつかない」「手を抜かない」「挨拶する」「感謝する」ということです。人として誠実であれ、というのは当たり前のことのようですが、学問を探究する研究者として、また何より社会に出て通用する人間として欠かせないことだと考えています。

恩師や親友らとの出会いが自身の財産

私は高校を卒業した後、英語が得意であったわけでもないのに留学を決意し、1986年からイギリスにわたりおよそ10年間の大学生活を送りました。当時はスマホやインターネットのない時代で、留学ための情報収集にファックスやエアメール(海外航空便)を駆使するなどの苦労も多く、また、留学してからも英語が身につくまでは苦労の連続でした。

イギリスで大学資格検定試験に合格し、ロンドン大学インペリアルカレッジを経て、イングランド南西部にあるブリストル大学の大学院で学びました。ブリストル大学の微構造グループは、電子顕微鏡による材料研究の指導的役割をケンブリッジ大学やオクスフォード大学とともに長年にわたって担っていたグループでした。修士課程では「電子顕微鏡を用いた固体物性の解析」、博士課程では「ある天然ダイヤモンドの解析」の研究に取り組みました。

電子顕微鏡学に限らず、そのバックグラウンドとなる物理学、X線学や結晶学を学ぶ機会を持てたこと、さらには研究哲学を個人的に指導していただいた数名の恩師に出会えたこと、そして常に一緒に時間を過ごせる親友達に出会えたこと、などが私にとって貴重な財産です。

金子 賢治 教授

Kenji Kaneko

昭和42年1月6日、群馬県立太田高校を卒業後、渡英し、インペリアルカレッジ・ロンドン(当時はロンドン大学インペリアルカレッジ)を経てブリストル大学で博士号(Ph.D.)取得。科学技術振興機構(JST)、ファインセラミックスセンター(JFCC)、東京大学などを経て、現在、九州大学大学院工学研究院材料工学部門「材料解析学研究室」教授。

Tea Break

大学の居室にはイギリスから持ち帰ってきた宝を幾つか飾っています。所属していた大学のチームの選手のサイン入りのクリケットのボールとバット、フィールドホッケーのボールとスティック。大学院時代、親友達とほぼ毎日クリケットやフィールドホッケーをしていたこともあり、幾度となく恩師から雷を落とされていたのも、今となっては良き想い出です。

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趣味とは言えないかもしれませんが、ドライブも大好きです。群馬にある実家まで、年に2回ほど車を走らせています。休憩を入れながらなので、13時間ほどかかってしまいますが、苦痛に感じたことはありません。研究者の資質との関係性は分かりませんが、性格的に合っているのでしょうね。

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