九州大学 材料工学部門 工学部 物質工学科 材料工学コース 大学院工学府 物質プロセス工学専攻/材料物性工学専攻 大学院工学研究院 材料工学部門

研究者PickUp
鉄鋼材料が環境を守る? 鉄の高強度化は人類の未来さえ左右する大きな科学分野だ。
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土山 聡宏 教授
Toshihiro Tsuchiyama
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研究者PickUp

高校時代の友人の多くは京大を目指していました。そんな中で、両親がともに福岡に何かしら関係を持っていた私は、故郷から遥か遠くにある九州大学を選びました。もしかしたら、私の中に青春の情熱のようなものが、知らない大地に自分の足で立ってみたいという思いとともに湧き上がったのかも知れません。理系人間であった私は、物理や化学など、高校時代に学んできた基礎を生かした研究に取り組みたいと漠然と工学部を志望していました。

材料工学との出会い

大学に入って、あらゆる工学の土台にあるのが、材料工学ではないか、という思いが芽生えました。ロボット科学も産業機械も精密機械も、それらの性能を左右している、否、もしかしたら支配しているのが「材料」ではないか、とさえ考えるようになりました。さらには、いま最先端と呼ばれている機械の性能をもっと高めていくためには、新たな研究がなされ、新しい材料が生まれる必要があると考えています。

自動車を一例に挙げて分かりやすく考えてみましょう。アメリカで初めて大量生産されるようになり一般化したT型フォードと、現在生産されている自動車を比較するとよく分かります。何が求められてきたか―車体を軽くして燃費を上げ、高速で走れるように、しかし万が一の事故が起こっても強くしなやかなボディーが車に乗った人を守る―という相反する特性を持った要素です。その、根本的なニーズは今日でも変わらず、現代科学は常にそういった要請に応えてきたのです。

さらなる高強度化目指して

いま、私が学生の諸君と一緒に研究を進めているのは材料の「強度を高める」ということです。

皆さん、明石海峡を横断して架けられた神戸市と淡路島を結ぶ世界最長の吊り橋である明石海峡大橋をご存じですか。その規模はというと全長3,911メートル、中央支間1,991メートルで、1998年の開業以来、10年以上の長きにわたり「ギネス世界記録」に認定されるほどです。これを実現したのは、高強度亜鉛メッキ鋼で作られたスチールワイヤーの技術です。わずか直径5.23ミリでありながら、引っ張り強度は1平方ミリ当たり180キロ。このワイヤーが束ねられた1本のケーブルの直径は1.12メートルで、約6万トンの荷重を支えているのです。私たちは、そんな巨大構造物を可能にする、より強くしなやかなもの、強高度粘性を有する材料開発に思いをはせて研究を続けています。

合金化で鉄は変わり特性を持つ

特殊鋼のことをお話ししましょう。

氷山に衝突し沈没した豪華客船・タイタニック号の悲劇は、幾度か映画にもなりました。これは、「とてもぶ厚い鉄=強い鉄」という、ひと時代前の発想によるものでした。北大西洋の寒さによって船体の金属特性がもろくなっており、衝撃で船体が二つに割れてしまい被害が大きくなったといわれています。しかし、今日社会に求められている「鉄」は、硬く強いだけでなく、衝撃にも耐えうる「粘さ」を持つことです。

鉄の強度を高めるために何かしらの元素を組み合わせ、合金化する技術は以前から研究がなされています。例えば、ニッケル(Ni)を加えれば、粘り、強さが増し、熱に強くなる。強さ、硬さを増すためにはマンガン(Mn)を、さびにくさを求め、摩耗に強くするにはクロム(Cr)を、高温での強さ、硬さを増すためにはモリブデン(Mo)を…といった具合です。他にも、バナジウム(V)、チタン(Ti)、ビスマス(Bi)、タングステン(W)などが使われています。この合金化技術も私たちの研究の一つですが、それだけでなく製造過程の熱の加え方によって鉄鋼材の特性は大きく変化します。

日本刀がピストルの弾丸を真っ二つに

皆さんは、固定された日本刀に向けてピストルの弾を発射する映像をテレビ番組などで見たことはありませんか。真っ二つに切れるピストルの弾、刃こぼれ一つしない日本刀。一般の人なら大喜びしそうなことですが、加工された鉄の強さを知る人たちには当たり前すぎること。鍛冶職人が、硬さや粘りの違う鉄で構成した刀剣を炭の中で真っ赤に熱し、ジューっと焼きを入れる―。あれこそが鋼(はがね)を強くする「焼入れ」という工程です。平安時代から続く日本の刀鍛冶技術の素晴らしさは、まさしく世界に誇りうるもので、今日では日本包丁を買い求める外国からのお客様も多いといいます。

焼入れによって、なぜで強い鉄ができるのか科学的にいうと鉄(Fe)を強くするために製造過程で加えられる炭素(C)との合金化によって、数段の硬さを得るのです。この焼入れした鋼を構成する物質をナノメートル(1ナノメートルは、1メートルの10億分の1)の領域で組織制御(原子配列をコントロール)する必要があります。均一でなおかつ安定した金属組織を材料の中に形成させることが何より重要となります。

鉄ですから私たち研究は理論的であり、実験的であると同時に、コンピュータシミュレーションを駆使する「モノづくり」の世界。作り上げ、電子顕微鏡で結晶レベルで確認し、そういった積み重ねから新しい材料の切り口を発見していくのです。

強度は環境を守る?

以前、私が研究テーマにしていたものをご紹介しましょう。

カテーテル手術など、医科分野では治療や検査に用いる器具の小型化(ダウンサイジング)が進んでいます。体内に入れる金属材料をより小さくする必要がありますが、金属材料の力学特性はサイズが微小化されると著しく劣化することが問題でした。私たちは、製品サイズを極微小化しても優れた特性が維持される新しい生体用金属材料の開発とその安価な製造プロセスの確立を目標として研究を進めました。

先に述べた鉄にニッケルを加えると「粘り強い強さ」が得られることを記しました。しかし、人間の体内で使用し、アレルギー反応など安全性が求められることから、ニッケルの代わりに空気中に無限に存在する窒素を原子レベルで自由に制御して使用する技術の獲得を日本の医療機器メーカーの協力も得て実現しました。安全でかつ安価に製品化できる技術として広く認められました。

これからの研究課題は、高組織制御技術を生かした、次世代のクリーンエネルギーともいわれる「水素」に強い夢の材料の開発です。水から生まれ、水に帰る究極の元素ですが、水素脆化しない材料は、未だ開発されていません。私たちの大きな目標です。

自動車用鋼板では軽量化と燃費向上、航空機・ロケットでは大型化・高速化、ビルや橋梁など巨大構造物では高層化、巨大化、発電所ではその効率向上を図れるなど、材料の高強度化は、省資源・省エネルギーに結びつき、ひいてはCO2の排出削減によって地球温暖化を防止することができるのだと私たちは考えています。

土山 聡宏 教授

Toshihiro Tsuchiyama

昭和45年10月10日、京都市山科区出身。滋賀県立膳所高校から九州大学、同大学院を経て、現在、九州大学大学院工学研究院材料工学部門教授。材料加工工学、構造材料工学が専門。

Tea Break

ここ15年ほど私はフランスワインにはまっています。特に、どっしりした深みのある感じのボルドーワインがお気に入りです。フランスのワインは、ブルゴーニュや、シャンパーニュなど、生産地によって系統だっているので、カベルネ・ソーヴィニオンなどブドウが育った村を思いながらグラスを傾けています。毎日飲むわけではありませんが、ワインはとてもデリケートな飲み物で、光や温度、さらには振動にも弱く、適切に保管しないと味が劣化してしまうので、10本ほどが収納できるワインセラーも買い揃えました。

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今年3月、大切にしまっていた2001年もののシャトー・マルゴーの封を開けました。私自身の教授昇進、結婚20周年、息子の高校合格が重なったからです。

人生を豊かに過ごすためには、仕事ばかりではなく、ずっと続けられる趣味を持つといいと思います。

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