九州大学 大学院工学研究院 材料工学部門 結晶塑性学研究室

研究内容/生きている金属。その動きをとらえる『いろいろな手法で変形を見る~ちいさな実験道具で変形を見る~』

2 「ちいさな実験道具で変形を見る」

きわめて小さな世界につくられた実験道具

突然ですが問題です。下の写真は何の写真でしょうか?
山里離れた場所にぽつんと存在する小さな集落を上空から撮影した写真でしょうか? 小さな四角は住居にも見えたりします…

小さな四角を拡大してみると、
下のような形になっています。複雑な形をしていますね、中央の突起は「マイクロカンチレバー」と呼ばれます。日本語では「片持ち梁」です。片方だけホールドされた状態の梁の形状をしています。レバーの長さはわずか15μm(髪の毛の直径の約1/10)。これはきわめて小さな世界につくられた小さな小さな実験道具です。

一つの結晶粒の力学特性を見る

材料はたくさんの結晶粒の集まりで成り立っていますが、その中の一つの結晶粒の力学特性を見るために、小さなカンチレバーを製作しました。今回はいま注目されているハイエントロピー合金(結晶粒は300μ程度)を使用し、これにFIB(収束イオンビーム法)を使って、ガリウムイオンをぶつけて削って成形しています。一つのカンチレバーを製作するのにかかるのは2~3時間。結晶粒内のどの方向に向けたらどんな動きをするのか知りたいので、一つの結晶粒のなかに方向を変えて幾つか製作しています。顕微鏡写真のなかの「1」とみえるのはそのナンバリングです。

このマイクロカンチレバーを「ナノインデンター」という小さな範囲を押して硬さを計る装置を用いて、曲げ試験を行います。下の動画は曲げ試験のコンピューターシミュレーションです。赤の部分が辷り(すべり)が起こっているところです。この計算では原子がずれる「辷り面」を多数存在させています。辷り面が多数あるとこの動画のように連続的に綺麗に曲がります。辷り面が少ないと断層のように階段状に結晶がずれていきます、シリコン系鉄合金は辷り面が少ない「辷りの固執」が起こりやすいですが、ハイエントロピー合金は辷りの固執が起こっていないように実験から考えられます。

一つ一つの結晶粒の力学特性を見て、材料全体を探る

我々の身近で使われている金属は、単結晶の集まりと見なす事ができるため、金属の変形の本質を知るためには、本来は単結晶を用いた力学試験を行いたいところです。しかし、一般的に引張試験が可能な大きさの単結晶をつくるのは容易ではありません。もし、微小な実験道具を用いた手法で、一つ一つの結晶粒の力学特性がわかれば、最終的に計算シミュレーションを用いて、材料全体の力学特性が明らかになる可能性があります。このような手法は近年確立したもので、セラミックスの研究分野では実施されていますが、金属材料の分野ではまだめずらしいアプローチです。この手法が確立すれば、材料の力学特性を詳細に把握したうえで、大きな塑性変形も予測できるようになり、ものづくりがもっと容易になるかもしれません。そのような想いから、当研究室では新しいアプローチに積極的に挑戦しています。

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