九州大学 大学院工学研究院 材料工学部門 結晶塑性学研究室

研究内容/生きている金属。その動きをとらえる『亀裂先端で発生する転位のナゾ』

シリコンウェハを悩ませる「亀裂」

パソコンや電子機器などには数多くの半導体が使われています。半導体デバイスは、シリコンウェハ上に微細なパターンを形成し、トランジスタなどの素子を搭載したものです。最近では、パターンの微細化による高集積化や、生産性向上のためのシリコンウェハ大型化など、高度な技術が求められています。
もしシリコンウェハ中に極微細な欠陥(転位)があると、電気的なショートをおこしてしまうことがあります。このような欠陥は、外部から力を受けて材料の内部が変形し、限界に達して亀裂などの応力(力)が集中する所からが発生したものです。微細加工で高い信頼性が求められる半導体にとって、亀裂は大きな問題となってしまいます。


シリコンウェハ

亀裂先端では何がおこっているのか

シリコンウェハの中に存在する転位は、最初はごくわずかですが、ウェハ内に亀裂などがあると、その周辺で数がどんどん増えていきます。これを観察するためには、原子が見られるほどの高性能な顕微鏡を使って、μm(mmの1000分の1)以下のきわめて小さい構造を調べなければなりません。そのため、亀裂先端周辺で転位がどのように変化しているかを解析することはたいへん困難でした。


シリコン単結晶中に発生した亀裂先端近傍の透過電子顕微鏡像。亀裂の先端から転位(格子欠陥)が発生しています。

前の図面と同じ試料を電子顕微鏡内で連続的に傾斜させて取得した動画。
亀裂と転位の三次元構造がわかります。

原子レベルの世界を解明する

このような解析を可能にしたのが、世界最先端の超高圧電子顕微鏡とトモグラフィを組み合わせて、コンピュータ上で再現する技術「3次元電子線トモグラフィ(3D-ET)」です。トモグラフィとは、観察物の周囲からX線を照射することによって、断面図を得る方法で、病院で行うCTと同じ原理です。
そしてこの画像を得るための強い味方が、九州大学の超顕微解析研究センターにある、国内最高レベルの超高圧電子顕微鏡「HVEM(JEM-1300NEF)」です。
3D-ETでは、まず観察物の周囲から連続的に画像を取得します。これらの画像情報を調整、再構成して、3Dの画像を得ることができます。明確な画像を得るためには、電子線をあてる方向やその他の条件の最適化が必要です。新しい手法で「見えないものを見る」チャレンジで、材料科学の新しい発見が期待されています。


連続傾斜像からコンピューター上で再構築した亀裂と転位の三次元像。
いくつかの転位が同じすべり面上に乗っている事がわかります。

PAGE TOP