九州大学 大学院工学研究院 材料工学部門 結晶塑性学研究室

研究内容/生きている金属。その動きをとらえる『破壊を解明する』

ときには大型船をも壊滅させる「破壊」

鉄鋼材料は常温では十分変形しますが、低温では非常にもろくなる性質があります。
この性質によって、かつてはタイタニックの沈没にみられるような重大事故がおこることがありました。この事故の原因ともなった、金属材料がほとんど変形せずに破壊する現象を脆性破壊と呼びます。
この脆性破壊では、亀裂が1秒間に数百m~千数百mという非常に速い速度で伝播し破壊するため、条件がそろえば瞬時に壊滅的な被害をもたらすこともあります。有名な例として「リバティ号」があります。第二次世界大戦時、米国は溶接を本格的に導入し、戦時標準船(貨物船やタンカー等)を約2,700隻つくりました。このリバティ号は就航後すぐに1,000件を超える損傷事故を起こし、このうち200隻は沈没かまたは使用不能という事態に陥りました。原因は脆性破壊と考えられています。この事故をきっかけとして脆性破壊力学の体系化や溶接技術の向上が進むことになりました。


極低炭素鋼を-173℃で破壊させた後の破面。亀裂の進展方向を示すリバーパターンや、変形双晶が多く見られます。

現象の解明に挑む

なぜこのような脆性破壊がおこるのか、すなわちなぜ金属は低温で脆くなるのか、まずはその現象(脆性-延性遷移挙動)を明らかにすることが課題となっています。私たちは鋼やシリコン単結晶を用いて脆性-延性遷移挙動を支配する因子を一つ一つ明らかにすることで、信頼性の高い材料の設計指針構築をめざしています。

●フェライト鋼の脆性破壊を防ぐ

フェライト鋼の変形能は温度依存性が強く、低温の変形条件では延性(伸びる性質)が低下し、脆性破壊を起こすことがあります。脆性破壊を抑えるには鋼の低温での靭性(破壊に対する抵抗)を向上させることが有効ですが、この低温靭性の向上に添加元素が役立つことが知られています。この添加元素、例えばニッケルやマンガンがどんな影響をおよぼすのか、そのメカニズムの解明を進めています。

●パーライト鋼のデラミネーション(縦割れ)を解明する

橋のケーブルやタイヤのスチールコードなど、大量生産される鉄鋼材料のなかで最も強度が高いのはパーライト鋼を伸線加工した高炭素鋼線です。しかし伸線による強加工が進むと、デラミネーション(縦割れ)が発生することがあります。この具体的なメカニズムはいまだ明らかになっていません。そこでこのパーライト鋼のデラミネーション挙動を明らかにするため、電子顕微鏡観察を用いて研究を進めています。


熱間加工したままの試料は大根を切ったように真っ直ぐ割れますが(上)、大きな伸線加工を施すと、ねじり試験中にデラミネーション(縦割れ)が生じ破壊してしまいます(下)。

走査電子顕微鏡を用いて観察したデラミネーションが発生した試料の断面像(左肩)。拡大すると亀裂の直下では結晶粒の微細化が生じていることがわかります。中央にはメイン亀裂と別の小さな亀裂が進展している様子もみてとれます。

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