九州大学 大学院工学研究院 材料工学部門 結晶塑性学研究室

研究内容/生きている金属。その動きをとらえる『疲労をとらえる』

見た目は同じでも、中身はバラバラ

鉄の板を作るには、熱い鉄の塊を大きなローラーで徐々に薄く延ばす「圧延」という技術を用います。できあがった板は、見た目には同じ厚さでなめらかな形をしています。しかし板内部では、さまざまな変形が起こっています。
板内部の金属組織には、原子が規則正しく配列している「結晶」が数多く詰まっています。結晶には単結晶と多結晶があり、例えば宝石のダイヤやルビーは原子の向きがそろっている単結晶です。これに対し、鉄などの金属は原子がいろいろな方向を向いている多結晶です。
鉄の結晶は温度を上げたりすると、結晶の方向が変わったり、今ある結晶の大きさが変化することがあります。また組織の一部分に引張る力が加わると、結晶のある特定の面に沿って原子がすべる「すべり変形」や、結晶の一部が鏡面対称に変わる「双晶変形」が起こったりします。
このように、同じ鉄なのに、内部の結晶方位がそれ以前と変わってしまい、組織がバラバラになってしまうことがあり、この状態を「不均質変形組織」と呼んでいます。
鉄の板を作る工程では、先に圧延してから、その後で熱処理を行います。板がある温度に達すると結晶粒が新しい結晶粒に生まれ変わる「再結晶」という現象が起こります。この再結晶の起点となるのは、圧延時に組織内部にある不均質変形組織ではないかと考えられています。しかし、再結晶の発生場所や発生のメカニズムは、実はよく解明されていません。

鉄の内部に詰まっている結晶は、外から力が加わると、すべり変形などにより組織がバラバラになる「不均質変形」が起こることがあります(図の紫の部分)。不均質変形組織は再結晶の起点となると考えられます。写真は、ステンレス鋼を水平方向に圧延した板で、圧延方向に筋状の変形が現れています。

メカニズムの解明により、自動車ボディも美しく

私たちは、不均質変形組織がどのように発生するのか、また再結晶集合組織(再結晶時に結晶粒がある特定の方向にそろうこと)がどのように形成されるのか、を電子顕微鏡によって観察し、そのメカニズムの解明に取り組んでいます。
この研究は、鉄の板の性質を均一にコントロールし、品質の安定を図ることに役立ちます。例えば、自動車ボディの鉄の板では、板内部で発生する不均質変形を抑えることにより、なめらかな曲面に成形させることができます。また、変圧器やモーターの鉄心として使われる電磁鋼板において、金属組織の結晶方位のコントロールが性能向上のカギとなっています。不均質変形のメカニズム解明は、先端分野を支える重要なテーマなのです。
また不均質変形を観察する方法の一つに「微細格子マーカー法」があります。これは製品の表面に極微細な格子模様をあらかじめ描いておき、材料変形後にどのように格子模様が変化したかを調べる方法で、格子模様は電界放出形走査電子顕微鏡で観察します。このような観察方法の開発により、ミクロな変形組織のようすを明らかにすることができるのです。


不均質変形のメカニズムを解明することで、鉄の品質を均一にコントロールすることができます。これにより、自動車ボディを滑らかな曲面のデザインに加工することができます。

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