九州大学 大学院工学研究院 材料工学部門 結晶塑性学研究室

研究内容/生きている金属。その動きをとらえる『疲労をとらえる』

ひっそりと知らぬ間に進む疲労

激しく運動したり、長時間労働を続けたりしていると、人は疲労します。実は、同じように金属も疲労するのです。長い年月、金属を使い続けていると、疲労がたまって、ついには壊れてしまうことがあります。
身の回りには金属が使用された機械や構造物がたくさんあります。その事故の約90%は疲労による破壊が原因と言われています。例えば1954年、世界初のジェット旅客機「コメット機」が地中海上高度約8000mに達したところで、空中分解を起こしました。事故の原因は与圧の繰り返しによる疲労破壊でした。旅客機が航行する高度では、機体の内外の気圧の圧力差が大きく、地上とは比べものにならないくらいの力が機体に加わります。通常は荷重試験や疲労試験等が実施され、このような試験を経て安全性を確保した設計がなされますが、おそらくコメット機は金属の寿命予測を誤ったと言われています。
「疲労」とは、応力が繰り返しかかることによって発生したごく小さな亀裂がしだいに伝わり、やがては破壊に至るという現象です。ひっそりと知らぬ間に金属内部で疲労は進みます。それをいかに捉えることができるか。重大な事故を未然に防ぐために、疲労の仕組みを解明し、疲労破壊を防ぐことは金属材料開発においてきわめて重要なのです。

疲労の進行をとらえる

近年、チタン合金が航空機の機体やエンジンに使用されるようになってきています。しかしながらチタンの疲労による亀裂の進展を推測することは難しく、設計には過剰な安全率を設けざるを得ないというのが現状です。亀裂が進みにくかったり、亀裂の進み具合が遅い材料の開発が望まれており、そのためには材料の亀裂がどのように進むか、また温度などの環境の影響を明らかにすることが重要となっています。
航空機で使用されるチタン合金(Ti-6Al-4V等)は加工や熱処理によって組織が異なり、それらは多種多様な界面を内包しています。疲労亀裂の発生や伝播は、その中での最弱な部分で起こりますが、使用条件によって動きが大きく変化するため、同じ条件下でも大きなばらつきが生じます。疲労現象は、非常に複雑な要素が絡み合って起こりますが、我々は「亀裂と転位」の相互作用に着目し、転位論という学問体系をベースにして疲労亀裂の進展挙動を明らかにしようと試みています。疲労現象は、亀裂が発生するステージⅠ、亀裂が伝わるステージⅡと進みますが、ステージⅡはさらに、短い亀裂が成長する初期段階と、長い亀裂が安定的に成長する段階の二つに分かれます。私たちは亀裂が成長する段階に着目し、亀裂の成長が温度によってふるまいが変わるため、この温度依存性と亀裂先端での転位運動、疲労亀裂進展の関係性について明らかにしようとしています。


画面の左右に引張荷重をかけて除荷を繰り返したときの動画。
ノッチ(切欠き)の直下から亀裂が画面下方向に進展している様子(早送り)。
左上のCyclが繰り返しの回数を示します。

チタンの疲労破面。繰返しの引張荷重によって疲労亀裂が進む際、亀裂の進展方向に対して垂直に、直線的なストライエーション(縞模様)が見られます。

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